AIが進化しても残る会社の強みとは:信頼・評価基準・情報構造など事業を守る6つの「堀」と経営への示唆

The Super Intelligence 編集部 2026年9月27日 ▶ 動画 14分

この記事は、YouTube「fussa | AI自動化」の動画の内容をもとに、公式発表と照らし合わせて書いています。

要点

AIで機能をすぐ再現できる時代に、事業を守る強みはどこに残るのか。海外の記事が示した6つの「堀」を、IT企業を経営する運営者が解説しました。信頼と責任、評価基準、情報の構造、費用の制御、販売経路、現場に合う作り込みの6つがそろって、はじめて顧客が買う理由が言えるという考え方です。

  • AIが賢くなっても短期間では再現できない強みを「堀(モート)」と呼び、6つに整理します
  • 6つは、導入の信頼と責任、業務の評価基準、AIが使える社内情報の構造、品質と費用の制御、顧客に届く経路、現場に合う作り込み
  • 堀は水面下にあり外からは見えません。その上ではじめて「何を売る製品か」というポジショニングが決まります
  • 運営者は、今後5年ほどは6つ目の「現場に合う作り込み」が最も差になると見ています

AIを使えば、他社の製品の機能をかなりの部分まで短期間で再現できるようになりました。では、AIがさらに進化しても簡単にはまねされない会社の強みは、どこに残るのでしょうか。今回の動画は、この問いを扱った海外の Substack の記事を、IT企業を経営する運営者が日本語で読み解いたものです。

記事は、AIから事業を守る強みを、城を囲む「堀(モート)」にたとえて6つに整理しています。6つは水面下に沈んだ氷山の本体のようなもので、外からは見えません。その上にようやく「何を売る製品か」が見えてきます。つまり、堀がそろってはじめて、顧客が買う理由(ポジショニング)が言えるという考え方です。

本稿では、6つの堀を一つずつ整理し、運営者がどれを重く見ているかを紹介します。記事が挙げた企業の例は、各社の公式情報で確かめられた範囲で触れます。

6つの堀の全体像

堀 中身 AIで短期間に再現できない理由
1. 導入の信頼と責任 顧客の情報を守り、業界のルールに従い、結果に責任を持つ 信頼と契約は、実績と時間を積まないと得られない
2. 業務の評価基準 何ができれば合格かを具体的に決めている 専門家と磨いた基準は、顧客との接点からしか育たない
3. AIが使える情報の構造 AIが社内の情報を読み書きし、直接仕事を進められる 組織にしかない情報の構造と運用は、自動では得られない
4. 品質と費用の制御 仕事1件あたりの品質と原価を自社で制御できる 評価の仕方や学習のノウハウは、AIを契約するだけでは手に入らない
5. 顧客に届く経路 導入済みの顧客基盤と販売経路を持つ 機能はまねできても、顧客基盤はすぐに作れない
6. 現場に合う作り込み 特定の仕事に詳しく、丁寧に作り込み、優先順位を判断できる 細部の判断の積み重ねは、AIで一度に出せない

顧客が求めているのは道具そのものではなく、仕事の成果です。製品は、その成果を出すための手段であるべきだといいます。6つの堀は、その成果を他社がまねできない形で出し続けるための土台にあたります。

1・2:信頼と責任、そして「合格」の基準

導入の信頼と責任

1つ目は、顧客が業務で安心して使える条件を満たしていることです。顧客の情報を守れるか、業界のルールに従えるかがまず問われます。そのうえで、提供する会社が結果に責任を持ちます。問題が起きたら原因を説明し、契約で定めた範囲で対応します。

記事が例に挙げたのは、法律事務所向けのAI「Harvey」です。Harvey は公式サイトで、顧客のデータをAIモデルの学習や自社製品の改善に使わないと明記しています。外部のAIモデルの提供会社にも、顧客データを学習に使うことを契約で禁じています。

法律事務所は、扱う案件の情報が外に出ることを強く嫌います。こうした約束を契約で示し、実績を積んで信頼を得るには時間がかかります。AIがどれだけ進化しても、AI自体が責任を負うことはできません。運営者は、この点が堀になると説明しています。

業務の評価基準

2つ目は、「良い仕事とは何か」を具体的に定めていることです。何ができれば合格かを、言葉で決めておきます。

それらしく動く法律向けのエージェントなら、すでに汎用のAIでも作れます。差がつくのは、専門家が納得する合格の基準を時間をかけて磨き、それをAIの改善に使い続けているかどうかです。Harvey が2026年8月に公開した自社モデルの研究報告では、法律業務の評価課題1件につき平均50ほどの合否基準を設け、事実、結論、引用、書式などを細かく採点しています。

運営者は、顧客との接点があるからこそ専門知識が積み上がり、製品が賢くなっていく点が本質だと見ています。

3:AIが読み書きできる情報の構造

3つ目は、AIが社内の情報を読み書きし、直接仕事を進められる構造を持っていることです。記事はこれを「エージェントが使える状態」と表現しています。

例として挙がったのは Notion です。Notion のエージェントは、ワークスペースの情報を文脈として使い、ページやデータベースを作ったり編集したりできます。人とAIが同じ情報を見ながら仕事をする設計になっています。

なぜ堀になるのでしょうか。社員が数百人いる会社なら、数百人が日々そこに書き込み、情報を育てています。その組織にしかない情報の構造や関係、運用の文化は、AIがどれだけ発達しても自動では手に入りません。

運営者は自社の営業の経験から、この強さを実感していると述べています。顧客から「社内ポータルも営業の案件管理も Notion に入れている」と聞くと、簡単には別の道具に移せないと分かります。データがそこにある以上、その上で動くAIのほうが的確な答えを返しやすく、ますます外せなくなります。

4:仕事1件の品質と費用を自社で制御する

4つ目は、仕事1件あたりの品質と原価を自社で制御できることです。運営者は、6つの中でもこれが特に重要だと感じていると述べています。

ここでも例は Harvey です。Harvey は2026年8月、法律業務向けの自社モデル「Harvey Tenet」を研究段階の成果として公開しました。公開されている重みを持つモデル Kimi K3 をもとに、法律の仕事向けに追加で学習させたものです。公式の報告では、一部の評価で最高水準の成績を出し、表形式のレビュー作業では費用をおよそ10分の1に抑えたとしています。

堀になる理由は、原価を下げる技術が社内にたまっていくことにあります。評価の基準や学習のノウハウは、AIを契約するだけでは得られません。自社でモデルを制御できれば、大手のAI企業が料金を上げても左右されにくくなります。

運営者は、法律支援ツールのような製品は、表面だけなら専門外の人でも作れそうに見えると指摘します。しかし研究開発の組織を作り、モデルを他社に頼らない状態にするのは容易ではありません。これこそ氷山の水面下の部分で、外からは見えない強みだと見ています。

5:顧客に届く経路

5つ目は、顧客に届く経路と、すでに使われている基盤を持っていることです。6つの中では最も分かりやすい堀だと運営者は言います。

運営者が例に挙げたのは Microsoft 365 です。日本の大企業の多くはすでに Microsoft 365 を導入しています。その上でAIの仕組みを提供されると、専業のAI企業が日本で営業を重ねて得た地位も、ひっくり返りかねないと見ています。

運営者は、ビジネスチャットで Slack が Microsoft Teams に勝ち切れなかった理由も、この販売経路の差が大きかったと考えています。機能を再現できても、導入済みの顧客基盤と販売経路はすぐには作れません。AIの時代にも、この構図は生きているという見方です。

6:現場に合う作り込みが最後に残る

6つ目は、特定の仕事に詳しく、丁寧に作り込み、何を優先するかを判断できることです。運営者はこれを「神は細部に宿る」という言葉で説明しています。

記事は、開発チーム向けの製品開発ツールを手がける Linear を例に挙げています。どう使われているかという細部の判断を積み重ね、現場を理解して設計します。その蓄積が、操作の使いやすさにつながっているといいます。

運営者は、この6つ目が今後5年ほどは最も大事になると考えています。AIに頼んで一度で出したアプリは、その分野に詳しい人が熱意を持って作り込んだ製品にはまったくかないません。1日AIとやり取りしたくらいでは追いつけない、というのが運営者の実感です。

一方で、5年後、10年後に電力が安くなり、AIのモデルが大きく進化すれば、この堀が通用しなくなる可能性もゼロではないと付け加えています。それでも現時点では、「AIで自分も作れる」と言う人の多くは、この作り込みを経験していません。AI以前から製品に熱心に取り組んできた人には、差をつける好機が続いていると見ています。

経営者は何を考えるべきか

記事は Harvey を例に、堀からポジショニングが生まれる流れをまとめています。顧客の機密を扱う体制があり、そのうえで法律業務を採点して改善する力があります。だからこそ「機密案件の判断材料をそろえ、調査とレビューを進める法律事務所向けのAI」と名乗れます。顧客との契約の運用や、専門家と評価を磨いた経験は短期間では築けません。そのため、このポジショニングはAIを使っても簡単には奪えないのです。

自社に当てはめるなら、次の順で点検するとよいでしょう。

  1. 6つのうち、自社が持っている堀はどれか。 機能の一覧ではなく、他社がAIで短期間にまねできないものだけを数えます。
  2. 信頼と責任を契約の形で示せているか。 顧客の情報の扱いや、問題が起きたときの対応を、約束として言葉にしているでしょうか。
  3. 「合格」の基準を持っているか。 自社の仕事の良し悪しを、専門家と一緒に具体的な基準へ落とし込めているでしょうか。
  4. 作り込みに時間を使えているか。 運営者が最も重く見るのは、現場の細部を判断し続ける力です。AIで作る速さが上がった分、作り込みへの熱意が差になります。

そのうえで、堀を顧客が買う理由として一文で言えるかを確かめておきたいところです。言えないなら、まだ堀が水面下で十分に育っていないということです。

関連する用語

出典

  1. 1Privacy CenterHarvey・確認 2026-10-05
  2. 2Harvey Tenet Research PreviewHarvey・2026-08-20・確認 2026-10-05
  3. 3Get started with Notion AgentNotion・確認 2026-10-05
  4. 4LinearLinear・確認 2026-10-05

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The Super Intelligence「AIが進化しても残る会社の強みとは:信頼・評価基準・情報構造など事業を守る6つの「堀」と経営への示唆」(2026-09-27)https://thesuperintelligence.jp/articles/ai-era-business-moats